それは、やがて満ちる“しなやかな月”。
 
「出づる月を待つべし、散る花を追うことなかれ」。中根東里(なかね・とうり)の言葉である。
 いたずらに過去にとらわれず、明日を夢みるべし。いま、「繊月酒造」と名を変えて新たな一歩を踏み出した私たちの胸に、この江戸時代の陽明学者の言葉がさわやかに響いてくる。
 昨年、峰の露酒造は創業から100年を迎えた。これまで歩んできた三万数千日は、いうまでもなくさまざまな苦難と歓びが交錯した一世紀であった。その歳月の重さは、けっして諺や格言のようにひと言で片づけられるものではない。がしかし、そこにこだわってはいられないのだ。明治、大正、昭和、そして平成へ。時代は移り、人も世間も変わっている。
 繊月とは、我が酒蔵のそばに残る人吉城の別名(繊月城)からとられたものである。三日月のように、かぼそい月。それはしかし、やがて太く満ちる“しなやかな月”でもある。
 私たちはいま、名も心も新たに、“次に出づる月”の到来を待っている。